最近、空き家が社会的な問題になっていますが、全国に820万戸ある空き家の過半数は賃貸住宅が占めています(図1参照)。それでも、税制改正を背景に節税対策として賃貸住宅を建てる動きが活発化しているのでストックが増える一方で、住宅需要を支えてきた世帯数の増加はピークに近づいています。このため、賃貸住宅の空き家が今後さらに増えるのはほぼ確実です。
このような厳しいマーケット環境の中で今後も賃貸住宅経営を続けていくためには、顧客が求めるさまざまなニーズにきちんと向き合う必要があるのは間違いありません。子育て支援や高齢者対応はもちろん、犬や猫の飼育対応も大きなテーマのひとつといえ、行政・民間ともに意欲的な取り組みもあらわれてきました。
例えばUR都市機構は、「人とペットがともに心地よく暮らせるライフスタイルの提案」と銘打ち、建築設計、設備などのハード面から飼育に関するソフト面まで細部にわたって工夫したペット共生住宅を開発しています。また、民間企業が提供する猫飼育可の賃貸住宅プランにも、内装・設備といったハード面だけでなく管理運営といったソフト面にも気を配ったものがあります。
物件の付加価値としてペット共生をコンセプトにしたあるハウスメーカーの商品は、入居者全員がペットと暮らすことを前提に、建物の内装や間取りについてペット仕様を提案するだけでなく、管理運営にもさまざまな工夫をしており、2015年1月末時点で累計2000室の受注実績を上げています。
立地条件や予算などで仕様は異なりますが、ハード面では、犬猫共通として専用のくぐり戸や天井に換気扇のあるペットスペースが、犬専用として逃走防止用フェンスドアやリードフック(首輪に付ける引き紐をかけておく)、専用庭が、猫専用としてキャットウォークやキャットステップ、窓からの飛び出し防止フェンスがオプションで選べます。
また、壁紙は腰の高さで仕上げを切ることで、猫の爪とぎなどで傷が付いても、通常なら一面単位での張り替えが見切り下部分だけで済むようにできるので経済的です。引っかき傷に強い腰高のパネルや床材も選択できます。
管理運営面では、入居前に専門スタッフによるペットのしつけなど飼育状況のヒアリングや、飼い主のマナー意識の調査のほか、ペットクラブへの加入義務など、ペットと入居者同士のコミュニティ形成を促す仕掛けもあります。実際、ペットに理解のある人たちが入居しているため、近隣に対する過度の気遣いが必要なく、ペット愛好家同士の穏やかなコミュニティが形成されやすいとのことです。
このほかにも、猫好きの大家さんが建てた猫専用アパートがあります。このアパートは、賃貸住宅で保護猫5頭を飼育した経験から、猫と楽しく住める理想的な住宅として建てられたもので、猫好きの人たちともシェアしたいと住戸の一部を賃貸しています。猫の飛び出し防止用の引き戸や逃走防止用の塀を設けたベランダ、猫専用ドアやトイレスペース、キャットウォーク、汚れを簡単に落とせる床など、猫好きだからこそ出来たこだわりの設備が用意されています。また、保護した野良猫を飼う場合、家賃の一部を還元する「ノラネコ割」もあります。
何よりも、猫に快適なだけでなく住む人にも快適であることを重視していて、居室は35m2と通常のシングル向け賃貸にしては広めで、分譲マンションと同等仕様のバスルームやキッチン、トイレ、ネット環境が備わっています。猫はもちろん人にも快適な住まいは、ペットと暮らす住宅を考えるうえで重要なポイントだと思います。
最近の賃貸住宅建設や管理の受注競争では、子育て支援や高齢者支援で他社物件との差別化を図ろうという動きが目立ちます。ペット共生もこれらと同様、賃貸住宅の付加価値のひとつとしてマーケットでの認知度が高まりつつあるといえます。次回は5回目となる最後の回、猫にとっての理想の住まいについてお伝えします。
※次回は2015年11月17日(火)の予定です