鹿児島モルトウイスキーラボ BarBILBAO

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シングルモルトはストレートにこだわる理由

ウイスキーグラス - テイスティンググラス

鹿児島ではウイスキーのストレートはとにかく嫌われます。なぜでしょう?
ウイスキーはストレートで飲むものなのに。
明日があるとか、ヘベレケになるでしょ!・・・など。
CMでは氷が入っているじゃないか・・・という反論もよく。
モルトの作り手の思いと商業的な販売促進とは違うのです。


『初めてのモルトは一にも二にもストレート !! 』と考えます。
ここで重要なのは『初めて』という部分。
またストレート以外の飲み方、ハイボールやロックなどトワイスアップに至るまですべてカクテルだと思っています。
初めてのモルトをいきなりカクテルにしてしまうのは、シングルモルトの作り手に失礼です。
それは、シングルモルト自体が1000年の歴史あるとても秀逸な作品だからです。


ウイスキーカクテルを否定しているわけではありません。
夏、クーラーボックスに氷をいっぱい詰めて、ソーダと上級のモルトをキンキンに冷やし、うだる日差しの中アウトドアで飲むハイボールはとてつもなくおいしいものです。
ただそのハイボールも料理と同じで、モルトとソーダの相性や夏の青空に似合うモルトはどれがいいだろう・・・とか、山だったら・・・海だったら・・・食事は・・・など、材料が理解され作るハイボールとそうでないハイボールに、月とスッポンほどの差が出ることは言うまでもありません。
材料を理解すれば、ロックであろうとハイボールであろうと、いかなるカクテルも自在でしょう。
しかし、材料を理解するのにストレート以外あるでしょうか?


初めて来店し、『珍しいのはないか?明日仕事なのでロックで。』という方にとっておきは絶対に出ません。
初のモルトだろうと関係なく、氷が解け味が変化する様を楽しむという方もいますが、材料を理解していないのにどうして楽しめるのか理解できません。
また、オフィシャルのスタンダード品は水増しされ、蒸留所一押しの限定品にはなぜカスクストレングスが多いのでしょう?
この事実に議論の余地はありません。
度数に慣れようとしないロックにこだわる頑固者は、モルトの真髄を知ることは永遠にできないということです。


バニラアイスクリームを常温に戻すと、とっても甘くバニラの香りが強力になるでしょ?
モルトに氷を入れるということはアイスクリームの例と逆のことが起きるのです。
もともと冷やすことを前提とされていないモルトは、氷を入れるとその味や香りは作り手が完ぺきと思い出荷したモルトとはかけ離れたものとなります。
モルトの香り成分は約700種類も含まれているといわれています。
モルトという贅沢なお酒は、一杯が時間経過とともに繊細ですが劇的に変化する味や香りを感じれる時こそとても贅沢な時間となるのです。


ストレートで輪郭を掴み、のちに水は少し入れたほうが解りやすい、という意見をお持ちの方も少なくありません。
それができる方は素晴らしいです。
私の場合ですが、その日によって体調などでもテイストが変わり、さらには新しい発見があったり、また、抜栓し空気に触れることにより数日から数カ月、時には数年かけ味が変化していくシングルモルトがほとんどです。
私は、その一つのシングルモルトをおおよそ理解するまでに、日を変えて何度も飲まないとその輪郭は掴めないという未熟者です。

私の言葉で得心がいかない方は、村上春樹の『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』をおすすめします。
とてもきれいな言葉に誘われ、きっとストレートを試してみたくなるでしょう。

もし僕らのことばがウィスキーであったなら (新潮文庫)

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by Bar BILBAO