キーワードは「多様性」
「インド洋圏」は,概念的には決して新しいものではない――解説にも述べられている(p.522)ように,日本では「海のシルクロード」という言葉で知られている――ものの,それが「これからの国際社会の動向の中心に位置する」としたところがミソ.蟹味噌.
著者曰く,
「私がこの本で主張したいのは,〔中略〕21世紀の『広域インド洋の地図』が,20世紀で『ヨーロッパの地図』が占めていた立場にとって代わることになるかもしれない,ということだ」(p.10)
そしてその上で,アメリカに対し,その広域インド洋の多様性を認識して,発想の転換をせよ,と迫る内容に.
たとえば,
「これからの時代の基地は,冷戦やそれ以前の時代に作られた,強固な軍事基地のような形ではなく,むしろ民間と軍の両方が使えるような潜在的なもの,そして当該の二国間関係の状態に完全に左右されるようなものになるはずだ」(p.30)
「インド洋は,隣接した中近東や中央アジアと共に,地政学における新しい『グレート・ゲーム』が展開される場なのだ」(p.32-33)
「単一の脅威を基にした同盟システムが,時代遅れである理由」(p.35-36)
「海洋の安全保障は,マーケットの力に動かされる」(p.36)
「インド洋周辺は,むしろメッテルニヒ式の『勢力均衡政治』へとつながる」(p.38)
「アメリカは民主制度というものを,法律や選挙のような基準から,杓子定規にとらえすぎる傾向があるように思う」「このような解釈は,アメリカのパワーを拡大するよりも,むしろ妨げる働きをする可能性さえある」(p.71)
「自国民をコントロールできない民主国家は,人権擁護という点では,独裁国家よりも酷い場合がある」(p.230)
「ポルトガルの征服は,後に行われたオランダやイギリスのそれと同じように,あらゆる帝国が陥りやすい『ダイナミズム』と『軽率さ』の両方を映し出している.そしてこれは,アメリカがこれから必死に学ばなければならない教訓を教えているのだ」(p.107)
「バングラディシュの例は,第三世界の悲劇が――「気候変動」という形で――正義と尊厳と言う,人間の基本的な要求から,強力な新しい政治の動きを,どのように生み出してきたのかを教えてくれる.アメリカのパワーの未来は,バングラディシュなどの国々の気候変動のような問題と,いかに関わり,対話していくのか,という点にもかかってくる」(p.226)
「効果のない説教主義に陥りやすい傾向」(p.364)
「インド洋と太平洋西部の,米軍の完全な支配状態が,次第に失われつつあるという実態」(p.422-424)
「強い米中関係は,21世紀の世界政治システムにとって,最高のシナリオとなるかもしれない」(p.425)
「アメリカはなるべく中国との共有点を探るべき」(p.443)
「多極状態に,何処までアメリカは責任を持って対処できるか?」(p.441-443)
「結局アメリカは自国の軍隊を,バランサーと見なさなければならなくなるだろう」(p.443-444)
等等.
▼
そして各章で,その多様性ぶりを紹介しているのだが,何しろそれぞれの地域について,深く突っ込んで書こうとすれば,それだけで本が何冊も書けるようなものであるだけに,シンボリックな事象の紹介にとどまる.
▼
以下,そのような「シンボリックな事象」:
▼
海運に占めるインド洋の大きな割合(p.24-25)
インド洋は最も核武装化された海(p.25)
「ビジョンと戦略」2008は,アメリカが大西洋北部やヨーロッパから,別の方面へ重心を移すという,歴史的変化(p.26)
中国の「マラッカ・ジレンマ」(p.27-30)
中国のインド洋進出は,商業的好機は決して逃すまいとする戦略によるもの(p.301-302)
結局はアメリカのそれと同じところに行き着くことになるだろう,中国の挑戦(p.304)
重要なのは,全体的なトレンドや,「非対称戦」能力,海軍面,経済面,領土面での要素の,クリエイティブな組み合わせによって,アジア全体に影響圏を作り上げる可能性を持つ国力のほう(p.426-427)
陸ではかなり安全といえる,現在の中国(p.428)
エネルギー需要の高まりが,中国の根本的な動機(p.428-429)
「逆・万里の長城」(p.431-434)
中国の権益が最も強く主張されており,かつ,リスクが最も高いのが南シナ海(p.434-436)
クラ地峡運河の重要性(p.436-438)
グワダルやハンバントタのような海軍基地が完全に整備されるかどうかは,正直なところ,かなり疑わしい(p.439)
▼
「香木のハイウェイ」(p.45-47)
イスラームは「枠組み提供宗教」(p.53)
オマーンはある意味,一つの「島」(p.61-62)
パワー分散が,イエメンの弱点(p.63)
カブース王とは?(p.64-71)
統治者と被統治者の間の非公式な相談という形に近い,中東諸国の「民主制度」(p.71)
宗教や部族という権威を通じた正義の実現が,中東諸国の目標(p.71-72)
イバード派の教義に影響されているところがある,オマーンの冷静さ(p.72)
オマーンにも波及しつつある,ドバイ式経済発展モデルの魅力(p.73)
サラーサ港という「別ルート」を提供できる立場にあるオマーン(p.77-78)
▼
インド洋は余興的なものでしかなかったオスマン帝国(p.82)
イスラームが身近な脅威であったイベリア半島(p.84)
擬似十字軍的な,ポルトガルのインド洋への動き(p.85)
「光と闇の戦い」のごとき捉えかたをされていたポルトガル(p.106)
ポルトガルによる海上ルート確立によって誕生した「世界史」(p.88)
相互利益的な海上交易の網を,ゆっくりとだが破壊したポルトガル(p.90-91)
「奴隷帝国」であると共に「軍事帝国」でもあったポルトガル(p.93)
▼
グワダルへ行くには,パキスタン内務省から発行してもらわねばならない「非不服証明書(同意書)」(p.112)
グワダル港を通じ,戦略的権益を固めておこうとしている,パキスタンと中国(p.114)
パキスタンの軍事・文官政府が抱えてきた,様々な弱点・不利(p.119-120)
グワダル開発で行われている土地略奪(p.121)
バルチ族に対する,スローモーションの民族浄化(p.122-128)
シンド州にとって,彼ら自身の失敗を痛感させる,インド・グジャラート州の近さと強さ(p.135)
定期的に政府や議会を「掃除」する役割に大失敗している,パキスタン軍部(p.142)
国境の脆さ(p.143)
ブットー親子の写真は「暴徒に対する保険」(p.146)
統一国家と言うより,複雑な族長連邦だった,モヘンジョダロやハラッパー(p.149)
アフ【ガ】ーンで成功するためには,アフ【ガ】ーンとパキスタンとを一緒に安定させる必要が(p.197)
イスラーム過激原理主義テロリストと一体化しつつある,パキスタン官僚組織(p.208)
▼
インドにとってのイランの価値(p.31)
場合によっては間違った方向に行く可能性もあるインド(p.156)
「2002年事件」とは?(p.157-162)
今日まで遺恨を残す,ガズナ朝マフムード王の略奪行為(p.164-165)
ITのおかげで現れてきた,数ある土着の宗教だった,ヒンドゥー主義やイスラームの,標準化・イデオロギー化(p.166-167)
核兵器獲得へのインドの憧れ(p.167)
ヒンドゥ至上主義の始まり(p.168-169)
民族義勇団「パラチャラク」(p.169)
ナレンドラ・モディとは?(p.170-184)
「カリンガ効果」とは?(p.175-176)
ムガール帝国のエリート達の団結と士気を失わせた,長期にわたる慢性的な叛乱(p.196-197)
中国の西側の入り口を封鎖するための「金属の鎖」(p.201)
今も深い影響を及ぼす,印中紛争におけるインドの敗北(p.203)
陸上で中国が仕掛ける「囲い込み戦略」に直面するインド(p.203-204)
カールワール港とは?(p.204)
亜大陸の中で,唯一機能している国家,インド(p.213)
民族グループ全てに権利を与えているという意味では,計り知れないほどの貢献をしている,インドの民主制(p.214)
経済特区構想計画にとっては邪魔な存在となっている,コルカタの貧困者(p.257)
荒廃したインド北東部を,ようやく解放する可能性がある,コルカタの陸路(p.259)
他のインドの都市に欠けている,綺麗な上水が豊富にあるコルカタ(p.260)
ロバート・クライブとは?(p.265-278)
高まるカーゾンへの評価(p.282-284) ネオ・カーゾニズム(p.284-286,296-297)
現実主義政策への回帰という意味合いがはるかに強いネオ・カーゾニズム(p.286-290)
▼
土が貴重なバングラディシュ(p.219-220)
まるで機能しない中央政府と,市町村の委員会の間にある真空状態を,埋める役割を果たしているNGO(p.224-225)
バングラディシュにおける,ワッハーブ派の伸張(p.226-230,232-233)
「バングラディシュは,文官が公的分野を支配しながらも,軍が背後で操るという,いわば文官と武官双方による,古いトルコ式の国家安全保障政権によって国を統治する運命にあるのかもしれない」(p.231)
無視されるチッタゴン(p.233-234)
ロヒンギャ族への悪評(p.239-241)
村がカースト制度に縛られているため,都市への移住によって起こる,その制度の途絶(p.249-250)
▼
圧政的な,多数派民族による権利の表現手段として使われている,スリランカの「民主主義」(p.309)
マルクス主義を信奉する民族主義者の暴動により失われた,1万5千(1971年)~5万5千(1989年)の死者(p.310)
プラバカランとは?(p.311-315)
統治権に関して公的責任を負わないところから生じている,タミルの虎やヒズボラ,アル=カーイダ,ターリバーンのような集団の,危うい永続性と致死性(p.315)
ラジャパクサ王国とは?(p.317-320)
政府軍の勝利が目前に迫ってきたとき,アメリカから閉じられてしまった「扉」(p.321) その機に乗じた中国の軍事支援(p.321-322)
政策策定に当たって人権問題を重視する国と,それを重視しない国との,世界の二極化(p.323)
スリランカで中国が完全に成功を収めることができていないのは,スリランカが政治地理的にインドの影響力の範囲内にあるため(p.323)
相対的な問題に過ぎない,スリランカの中国寄り政策(p.324)
タミル・ナードゥ州の存在により,スリランカとの関係において妥協を余儀なくされているインド(p.324)
選挙の際には,少数派タミル人に頼らざるを得なかったラジャパクサ(p.327)
▼
危険なのは,ミャンマー政府軍よりも,むしろタイ軍(p.329)
ミャンマーという国は,競争の「賞品」(p.334)
ミャンマーにおいて,政府側,反政府側両方に接触している中国情報機関(p.336-337,350)
ブッシュ政権のアジア軽視(p.337-338)
互いに対立しているというよりも,単にばらばらなだけの,ミャンマーの各民族(p.338-339)
1997年の,ミャンマー軍の攻勢による惨状(p.340)
「フリー・ビルマ・レンジャーズ」とは?(p.341)
ワ族とは?(p.342)
「条件設定の民営化」(p.344)
政権に忠実なのは最高幹部だけであり,他はいつ叛乱してもおかしくないミャンマー軍(p.345-347)
中国の浸透の具体(p.348-349)
道義性を置き去りにしているのは中国だけでなく,アメリカのパイプライン開発会社も同じ(p.350-351)
アル=カーイダの影に怯えるあまり,大局的な戦略判断を誤っており,ミャンマーを戦略的に重要だとは考えていない,アメリカの特殊作戦関係者(p.352)
ミャンマー最大の山岳民族,シャン族の価値(p.352-353)
「もしもアメリカが,少数民族に対する援助を拡大するのであれば,中国を怒らせるのではなく,ミャンマーで行儀良く振舞うよう,中国に対して静かな圧力をかける方法をとらなければならない」(p.355)
さまざまな民族が歴史的にさまざまな地域から移住してきたという事実に起因する,ミャンマーの民族の多様性(p.357)
ミャンマー民族概史(p.357-363)
愚かさと,国民を物として扱う態度が特徴的な,ミャンマーの軍事政権(p.363-364)
当面は軍部に指導的役割を果たしてもらう以外,選択肢無し(p.366)
パンロン合意の精神に立ち返る道を見出す必要性(p.366-367)
▼
インドネシアの現代性の象徴,ジルバブ(p.373)
イスラームの貿易布教(p.373-374)
「インドネシアにおいては,イスラームは文明を構築したのではなく,文明を盗用したのである」(p.374)
インドネシアのイスラーム主流派,「アバンガン(融合派)」(p.374-375)
反動的な効果をもたらした,インドネシア津波被害(p.376)
津波と一緒に流し去られたゲリラ活動(p.377-378)
イスラーム学者が自発的にリベラルな考え方を支持しているインドネシア(p.381)
「プサントレン」の問題点(p.382)
アルジャジーラの影響力(p.386)
憎しみに満ちたワッハーブ派からの影響(p.387)
イスラーム系市民団体「ナフダトゥル・ウラマー(UN)」とは?(p.388-389)
「過激な原理主義者は,敵対するにふさわしい敵を必要としている」(p.392)
インドネシアにおいて当初,解放者として歓迎されたオランダ人(p.402)
オランダ「帝国」の性格(p.403-407) その無情さと,その由来(p.407-411)
オランダの植民地経営崩壊の理由(p.411-412)
東欧においてユダヤ人が占めていた社会的地位を,インドネシアにおいて占めている中国人.「中国人は嫌われ者だ」(p.413)
アメリカ太平洋軍が中国を,太平洋地域の同盟関係に引きずり込んで,結果的に中立させることが,インドネシアの希望(p.414)
中国の強大な軍事力を前に,かつてないほど脆弱になっているインドネシア(p.414-416)
インドネシア軍の戦略のキーワードは「忍耐力」(p.416)
ますます中国の庇護下に入りつつあるマレーシア(p.417)
ゆるやかな独裁主義の足元が,おぼつかなくなりつつあるシンガポール(p.418)
▼
投資国はアフリカで,地元が必要とする食糧よりも,輸出向け穀物を作る傾向強し(p.448-449)
かなり曖昧になっている,「生産的投資」と「搾取」の境界(p.449)
有線インフラの少なさを.アフリカが一気に飛び越えることが出来た,携帯電話ネットワークの発展(p.449)
海賊の歴史と現在の実態(p.451-462)
「ミニ・ルワンダ」(p.471-477,479-480)
▼
しかし正直言って,アメリカの発想の転換は,非常に困難といわざるを得ず.
アメリカ・メディアが非常に内向きであることは,かねてから藤原帰一らの指摘するところ.
FOXテレビがイラクとエジプトを取り違えるようなレベルにあり.
もし発想の転換を迫るなら,アメリカ国民の意識改革から始めねばならず,そしてどの国を問わず,「国民の意識改革」ほど困難なものはなし.
また,発想の転換を促しているはずの著者自身,新しい中産階級にとって,「より良い政府,つまり民主制を求める声が高まっていくのは確実だといえる」(p.486)と,このように民主制をとらえている点にも疑問が.
本書のオマーンの章が,そのような捉え方にたいする反証となっているにもかかわらず.
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インド洋圏が、世界を動かす: モンスーンが結ぶ躍進国家群はどこへ向かうのか 単行本 – 2012/7/6
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注目の巨大経済・文化圏は、どこへ向かうのか?
米政権ブレーンにして、「100人のグローバルな思索家」に
選ばれた著者が徹底考察・未来戦略!
インド洋圏ならではのダイナミズムと全体像を、
現地取材をとおして明らかにする。
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インド洋圏は、いま世界で最も成長しているエリアであり、
巨大な経済・文化圏を形成している。
アフリカ東部から、アラビア半島、インドを経て、東南アジア、中国まで
広がるこの海域は、
遥か古代からモンスーンの風によって結ばれた大いなる交易圏だった。
(日本では海のシルクロードとして知られる)
インド・中国の台頭によって急速に変貌を遂げつつあるこの海域国家・都市群は
どこへ向かおうとしているのか?
米政権のブレーンであり、国際ジャーナリストとして知られる著者は、
インド洋圏各地を訪れ、タペストリーのように織りなされる複雑・多層な
この海域の文化・経済・政治・風土・歴史を読み解いていく。
米国の一極支配が弱まり、そのパワーを
アジア太平洋(広域インド洋圏)にシフトさせた今日、
インド洋圏の動向は多極化する世界の鍵を握っている。
本書は、たがいに深い影響で結ばれた「インド洋」という
一大交易圏の全体像を捉えることによって、
来るべき世界の指針と戦略を明らかにする。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
◎著者 ロバート・D・カプラン
米ワシントンのシンクタンク「新米国安全保障センター」の上級研究員。国際ジャーナリスト。米政権ブレーンとして国防総省・防衛政策協議会のメンバーも務める。『フォーリン・ポリシー』誌による「100人のグローバルな思索家」に選出。『バルカンの亡霊たち』(NTT出版)など、12冊の著書がある。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
::目次::
◎Part(1)
・第1章 垂直に拡大する中国、水平に拡大するインド
◎Part(2)
・第2章 オマーン、多文化の融合
・第3章 西洋とは異なる発展の指標
・第4章 海の世界帝国
・第5章 バルチスタンとシンド、大いなる夢と反乱
・第6章 グジャラート州、インドの希望と困難
・第7章 インドの地政学的な戦略
・第8章 バングラデシュ、権力の真空地帯で
・第9章 コルカタ、未来のグローバル都市
・第10章 戦略と倫理:大インド圏構想の推進
・第11章 スリランカ、インドと中国のはざまで
・第12章 ミャンマー、来るべき世界を読み解く鍵
・第13章 インドネシア、熱帯のイスラム民主制の行方
・第14章 海域アジアの変貌
◎Part(3)
・第15章 中国の海洋戦略の本質
・第16章 アフリカをめぐる、統治とアナーキー
・第17章 最後のフロンティア、ザンジバル
米政権ブレーンにして、「100人のグローバルな思索家」に
選ばれた著者が徹底考察・未来戦略!
インド洋圏ならではのダイナミズムと全体像を、
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インド洋圏は、いま世界で最も成長しているエリアであり、
巨大な経済・文化圏を形成している。
アフリカ東部から、アラビア半島、インドを経て、東南アジア、中国まで
広がるこの海域は、
遥か古代からモンスーンの風によって結ばれた大いなる交易圏だった。
(日本では海のシルクロードとして知られる)
インド・中国の台頭によって急速に変貌を遂げつつあるこの海域国家・都市群は
どこへ向かおうとしているのか?
米政権のブレーンであり、国際ジャーナリストとして知られる著者は、
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米国の一極支配が弱まり、そのパワーを
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インド洋圏の動向は多極化する世界の鍵を握っている。
本書は、たがいに深い影響で結ばれた「インド洋」という
一大交易圏の全体像を捉えることによって、
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◎著者 ロバート・D・カプラン
米ワシントンのシンクタンク「新米国安全保障センター」の上級研究員。国際ジャーナリスト。米政権ブレーンとして国防総省・防衛政策協議会のメンバーも務める。『フォーリン・ポリシー』誌による「100人のグローバルな思索家」に選出。『バルカンの亡霊たち』(NTT出版)など、12冊の著書がある。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
::目次::
◎Part(1)
・第1章 垂直に拡大する中国、水平に拡大するインド
◎Part(2)
・第2章 オマーン、多文化の融合
・第3章 西洋とは異なる発展の指標
・第4章 海の世界帝国
・第5章 バルチスタンとシンド、大いなる夢と反乱
・第6章 グジャラート州、インドの希望と困難
・第7章 インドの地政学的な戦略
・第8章 バングラデシュ、権力の真空地帯で
・第9章 コルカタ、未来のグローバル都市
・第10章 戦略と倫理:大インド圏構想の推進
・第11章 スリランカ、インドと中国のはざまで
・第12章 ミャンマー、来るべき世界を読み解く鍵
・第13章 インドネシア、熱帯のイスラム民主制の行方
・第14章 海域アジアの変貌
◎Part(3)
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・第16章 アフリカをめぐる、統治とアナーキー
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- 本の長さ528ページ
- 言語日本語
- 出版社インターシフト
- 発売日2012/7/6
- 寸法14.3 x 3.5 x 19.5 cm
- ISBN-10477269532X
- ISBN-13978-4772695329
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◎書評
類い稀な行動力に基づく該博な知識と
丹念な取材に裏打ちされた本書は、
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面白いだけでなく日本がなにを為すべきかに関して、
多くのことを確認し、新たに発想する鍵となる。
ーー櫻井よしこ『週刊新潮』
歴史解読と戦略分析が豊富に盛り込まれ、読み応え十分だ。
ーー『エコノミスト(日本版)』
歴史的な解読、現地取材、見事な戦略が広範な視野のもとに織りなされている。
ーーフォーリン・ポリシー
カプラン氏の幅広い旅と知識は、私たちを刺激的な洞察へと導く。
ーーワシントンポスト
第一人者による簡潔な歴史的スケッチと多岐にわたる戦略的分析の格別のブレンド。
ーーニューヨーク・タイムズ
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カプラン氏の幅広い旅と知識は、私たちを刺激的な洞察へと導く。
ーーワシントンポスト
第一人者による簡潔な歴史的スケッチと多岐にわたる戦略的分析の格別のブレンド。
ーーニューヨーク・タイムズ
登録情報
- 出版社 : インターシフト (2012/7/6)
- 発売日 : 2012/7/6
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 528ページ
- ISBN-10 : 477269532X
- ISBN-13 : 978-4772695329
- 寸法 : 14.3 x 3.5 x 19.5 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 560,177位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 2,197位国際政治情勢
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2012年7月13日に日本でレビュー済み
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東はインドネシアから、西はザンジバルまで、広大なインド洋圏を著者は幾度も取材に訪れる。そして、あまり馴染みのない都市や地域が、いま国際的にきわめて重要な要所であることを、現地の情勢とともに伝えてくれる。
たとえば、パキスタンの港町グワダル。一見、素朴な漁港なのだが、中国はここをエネルギー補給の要所とすべく、最新設備の整った深水港を開発している(その運営はシンガポールの企業が担う)。だが、当地では激しい民族闘争が繰り広げられ、闘争のリーダー達は、「中国の開発計画を潰す」と著者に断言する。
それでも、グワダル郊外では、政府による工業団地の開発も着々と進められている。一方、インドは、こうしたパキスタン-中国に対抗し、イランやロシアとともに、グワダル近くにチャー・バハール港を開発中だ。それだけではない、この一帯は、資源の豊富な中央アジアともつながることが見込まれている。こうして、グワダルは、希望と恐怖が入り混じる土地として浮上していくという。
インド洋圏とは、このような複雑なパワーゲームの舞台であることが、本書によって納得できる。その将来について、著者はさまざまな可能性を指摘するが、イアン・ブレマーの『「Gゼロ」後の世界』のような明快な論理には向かわない。このことは本書の弱みと捉えられがちかもしれないが、むしろ現地取材を重ねてきた著者の目には明快さよりも、「曖昧さ」こそインド洋圏の本質と映っているのだろう。事実、本書はこの海洋圏の「曖昧さ」「微妙さ」について、たびたび触れている。私たちは多極化し、さまざまな要因が複層的・流動的に絡み合う世界をこそ相手にしなければならないと、本書は訴えているのだ。
たとえば、パキスタンの港町グワダル。一見、素朴な漁港なのだが、中国はここをエネルギー補給の要所とすべく、最新設備の整った深水港を開発している(その運営はシンガポールの企業が担う)。だが、当地では激しい民族闘争が繰り広げられ、闘争のリーダー達は、「中国の開発計画を潰す」と著者に断言する。
それでも、グワダル郊外では、政府による工業団地の開発も着々と進められている。一方、インドは、こうしたパキスタン-中国に対抗し、イランやロシアとともに、グワダル近くにチャー・バハール港を開発中だ。それだけではない、この一帯は、資源の豊富な中央アジアともつながることが見込まれている。こうして、グワダルは、希望と恐怖が入り混じる土地として浮上していくという。
インド洋圏とは、このような複雑なパワーゲームの舞台であることが、本書によって納得できる。その将来について、著者はさまざまな可能性を指摘するが、イアン・ブレマーの『「Gゼロ」後の世界』のような明快な論理には向かわない。このことは本書の弱みと捉えられがちかもしれないが、むしろ現地取材を重ねてきた著者の目には明快さよりも、「曖昧さ」こそインド洋圏の本質と映っているのだろう。事実、本書はこの海洋圏の「曖昧さ」「微妙さ」について、たびたび触れている。私たちは多極化し、さまざまな要因が複層的・流動的に絡み合う世界をこそ相手にしなければならないと、本書は訴えているのだ。
2017年8月9日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ほぼ全編に亘って旅情をかきたてられる様な表現があり、いささかそこの部分にとまどいを覚えますが、インド洋という存在を、そこを取り巻く国家から眺め考えていくには丁度良い書籍と言えます。
内容は、歴史を俯瞰しつつ現在の国家や(少数)民族がどのようなアイデンティティをもって行動しているかを述べつつ、そこからインド洋というものの重要性を浮かび上がらせるような書き方となっています。インド洋に面しているインドや、今現在プレゼンスを拡大している中国の話はこの書籍のテーマともいえますが、一方でミャンマーやバングラデシュの話では知らないことの方が多く、ここも興味深く読むことが出来ました。
古代ローマ人は地中海を「我々の海」と呼んだそうですが、インド洋を取り巻く環境はこれからどのようになるのでしょうか。(衰退しつつある)米国とインドの、いわゆる連合と、それに対する中国という構図となるのでしょうか。中国がジブチに補給基地を作った、というニュースは個人的にトピックでしたが、ジブチに限らず大胆にインド洋で行動している中国と、かなりの海軍力を保持しているインドの動向は、これからも注視していく必要があるでしょう。
内容は、歴史を俯瞰しつつ現在の国家や(少数)民族がどのようなアイデンティティをもって行動しているかを述べつつ、そこからインド洋というものの重要性を浮かび上がらせるような書き方となっています。インド洋に面しているインドや、今現在プレゼンスを拡大している中国の話はこの書籍のテーマともいえますが、一方でミャンマーやバングラデシュの話では知らないことの方が多く、ここも興味深く読むことが出来ました。
古代ローマ人は地中海を「我々の海」と呼んだそうですが、インド洋を取り巻く環境はこれからどのようになるのでしょうか。(衰退しつつある)米国とインドの、いわゆる連合と、それに対する中国という構図となるのでしょうか。中国がジブチに補給基地を作った、というニュースは個人的にトピックでしたが、ジブチに限らず大胆にインド洋で行動している中国と、かなりの海軍力を保持しているインドの動向は、これからも注視していく必要があるでしょう。
2014年9月5日に日本でレビュー済み
本書の著者ロバート・D・カプランは、アメリカの著名なフリーランスのジャーナリストである。
本書は、日本の作家の小田実が、『なんでも見てやろう』や『 世界が語りかける』などで実践していた小田実言うところの「虫瞰」を凌ぐ現場主義に徹した地を這う如ききめ細かな取材をもとにして書き上げられた労作である。
例えば第8章の「バングラデシュ、権力の真空地帯で」のなかで記述していたダッカからインドのカルカタ(以前の名前はカルカッタ)まで7時間もかかるバスで移動したり、交通手段のないような僻地には自転車や腐ったようなボートで移動したりしながら執拗なまでに現場主義に徹した取材をもとに本書を書き上げている。
アフリカ東岸ソマリアから始まり、オマーン、パキスタンのバルチスタン(現バローチスターン州)地方やシンド州、インドのグラジャート州やカルカタなど、スリランカ、バングラデシュ、ミャンマー、インドネシアへと続き、最終章でアフリカ東海岸に戻り、無政府国家ソマリア、貧困に喘ぐザンジバルまで環インド洋国家を、文字の通り「虫瞰」しながら著者の豊富な知識をもとに、先にあげた国の近隣国家との外交も含め、気候風土、人種と民族、宗教、政治、歴史、文化などなどきめ細かに、その国の「過去」「現在」「未来」について自身の洞察をもとに私見を述べているから興味深い著作となっている。
評者が本書を読んでいる時を同じくしてインドのナレンドラ・モディ・インド首相が公賓として来日した。
安倍首相との会見や天皇皇后との謁見では、穏やかな顔の好々爺に見えたが、本書第6章「グラジャード州、インドの希望と困難」を読み終えたところだったから、日本の政治家などが及ぶような人物ではないのではないかと、その温和な顔で眼だけは笑わないモデイ首相を、TVのニュースで興味津々で見つめてしまったのである。
まだモディ氏がグラジャード州首相だった頃に著者が面談した時、「彼はとても活動的な人間で、私の知るかぎり私生活というものがなかった。彼からはパワーとコントロールがにじみ出ていた。それにしても、彼が2002年の組織的虐殺に関与していないということなどありえるだろうか? 私はこう自問せざるを得なかった。」と、モデイの印象を最期に書いていた。(P177)
これは、2002年グジャラート州暴動で、ヒンドゥー教徒によりイスラム教徒が1000人以上も殺害された事件を黙認し、事件に関与した疑惑のことを記述しているのである。
さて、本書の最大のテーマが、パックスアメリカーナの終焉が近いことを危惧し、マラッカ海峡から西の環インド洋国家と東に広がる環太平洋国家が、如何にして中国の台頭に対峙してゆくのかということに尽きるようである。
もちろん大国ロシヤとウクライナとの紛争やイスラエルとハマスとの戦争など中東の混迷も少なからず関わりをもっている事実もあるだろうが、本書では環インド洋国家についての考察であるから、それらの国家について多くは触れていない。
中国には、明代に宦官として仕えた武将「鄭和」が、七度にわたりアフリカ東海岸から南はインドネシアまで航海し、雲南でムスリムとして生まれた鄭和はメッカ巡礼までもしながら環インド洋国家と交易していた歴史がある。
鄭和は、後世ヨーロッパ列強が拠点を構築し植民地化を図るようなこともなく、その後中国も国内問題(北の国境守備)によってこのような大航海をすることは途絶えてしまった。
この歴史の事実を世界に思い出させるかのごとき鄭和による「西洋遠征」600周年の記念大会が2005年7月11日、北京の人民大会堂で催された。
あたかも環インド洋国家への中国の既得権があるかの如きパホーマンスとも思える記念大会である。
この式典以来中国では毎年7月11日を、「航海日」記念日として定めたのである。
今、中国は環インド洋国家の各地に巨大な港湾建設を着々と進めている事実(真珠の首飾り戦略)は、鄭和遠征時代とは異なる意図も透けてみえてくるのである。
アメリカと中国という大国間の軋轢が、この環インド洋国家や環太平洋国家の未来に何をもたらすかの答えを、本書の著者であるロバート・カプランは、何年か何十年後に中国海軍力はアメリカ海軍力と拮抗し追い抜くかもしれない。
が、軍事力で争うことより共通する利益追求という命題を理解することにより、インドをはじめとする今後発展する環インド洋国家との協力関係からおのずと解決するだろう、というような論旨で締めくくっているように読み終えたのである。
評者は、著者のオプティミズム的な観測に、少々疑問を持ったのであるが、環インド洋国家をくまなく取材しながら「虫瞰」した著者の情熱には敬意を表したいと思う。
蛇足になるが、評者が少し気になったこの問題を、経済産業省のHPで調べてみた。
平成25年度
地球環境適応型・本邦技術活用型産業物流インフラ整備等事業(環インド洋経済圏の構築可能性検討事業)調査報告書、という158ページにもなる調査報告書が存在していた。
が、報告書には、「委託先:株式会社日本総合研究所」と明記されていた。
いったいこの調査にいかほどの費用を、株式会社日本総研へ支払ったのだろうか。
相変わらずの丸投げで恰好だけつけ、お茶を濁しているお役所仕事に辟易してしまったのである。
本書は、日本の作家の小田実が、『なんでも見てやろう』や『 世界が語りかける』などで実践していた小田実言うところの「虫瞰」を凌ぐ現場主義に徹した地を這う如ききめ細かな取材をもとにして書き上げられた労作である。
例えば第8章の「バングラデシュ、権力の真空地帯で」のなかで記述していたダッカからインドのカルカタ(以前の名前はカルカッタ)まで7時間もかかるバスで移動したり、交通手段のないような僻地には自転車や腐ったようなボートで移動したりしながら執拗なまでに現場主義に徹した取材をもとに本書を書き上げている。
アフリカ東岸ソマリアから始まり、オマーン、パキスタンのバルチスタン(現バローチスターン州)地方やシンド州、インドのグラジャート州やカルカタなど、スリランカ、バングラデシュ、ミャンマー、インドネシアへと続き、最終章でアフリカ東海岸に戻り、無政府国家ソマリア、貧困に喘ぐザンジバルまで環インド洋国家を、文字の通り「虫瞰」しながら著者の豊富な知識をもとに、先にあげた国の近隣国家との外交も含め、気候風土、人種と民族、宗教、政治、歴史、文化などなどきめ細かに、その国の「過去」「現在」「未来」について自身の洞察をもとに私見を述べているから興味深い著作となっている。
評者が本書を読んでいる時を同じくしてインドのナレンドラ・モディ・インド首相が公賓として来日した。
安倍首相との会見や天皇皇后との謁見では、穏やかな顔の好々爺に見えたが、本書第6章「グラジャード州、インドの希望と困難」を読み終えたところだったから、日本の政治家などが及ぶような人物ではないのではないかと、その温和な顔で眼だけは笑わないモデイ首相を、TVのニュースで興味津々で見つめてしまったのである。
まだモディ氏がグラジャード州首相だった頃に著者が面談した時、「彼はとても活動的な人間で、私の知るかぎり私生活というものがなかった。彼からはパワーとコントロールがにじみ出ていた。それにしても、彼が2002年の組織的虐殺に関与していないということなどありえるだろうか? 私はこう自問せざるを得なかった。」と、モデイの印象を最期に書いていた。(P177)
これは、2002年グジャラート州暴動で、ヒンドゥー教徒によりイスラム教徒が1000人以上も殺害された事件を黙認し、事件に関与した疑惑のことを記述しているのである。
さて、本書の最大のテーマが、パックスアメリカーナの終焉が近いことを危惧し、マラッカ海峡から西の環インド洋国家と東に広がる環太平洋国家が、如何にして中国の台頭に対峙してゆくのかということに尽きるようである。
もちろん大国ロシヤとウクライナとの紛争やイスラエルとハマスとの戦争など中東の混迷も少なからず関わりをもっている事実もあるだろうが、本書では環インド洋国家についての考察であるから、それらの国家について多くは触れていない。
中国には、明代に宦官として仕えた武将「鄭和」が、七度にわたりアフリカ東海岸から南はインドネシアまで航海し、雲南でムスリムとして生まれた鄭和はメッカ巡礼までもしながら環インド洋国家と交易していた歴史がある。
鄭和は、後世ヨーロッパ列強が拠点を構築し植民地化を図るようなこともなく、その後中国も国内問題(北の国境守備)によってこのような大航海をすることは途絶えてしまった。
この歴史の事実を世界に思い出させるかのごとき鄭和による「西洋遠征」600周年の記念大会が2005年7月11日、北京の人民大会堂で催された。
あたかも環インド洋国家への中国の既得権があるかの如きパホーマンスとも思える記念大会である。
この式典以来中国では毎年7月11日を、「航海日」記念日として定めたのである。
今、中国は環インド洋国家の各地に巨大な港湾建設を着々と進めている事実(真珠の首飾り戦略)は、鄭和遠征時代とは異なる意図も透けてみえてくるのである。
アメリカと中国という大国間の軋轢が、この環インド洋国家や環太平洋国家の未来に何をもたらすかの答えを、本書の著者であるロバート・カプランは、何年か何十年後に中国海軍力はアメリカ海軍力と拮抗し追い抜くかもしれない。
が、軍事力で争うことより共通する利益追求という命題を理解することにより、インドをはじめとする今後発展する環インド洋国家との協力関係からおのずと解決するだろう、というような論旨で締めくくっているように読み終えたのである。
評者は、著者のオプティミズム的な観測に、少々疑問を持ったのであるが、環インド洋国家をくまなく取材しながら「虫瞰」した著者の情熱には敬意を表したいと思う。
蛇足になるが、評者が少し気になったこの問題を、経済産業省のHPで調べてみた。
平成25年度
地球環境適応型・本邦技術活用型産業物流インフラ整備等事業(環インド洋経済圏の構築可能性検討事業)調査報告書、という158ページにもなる調査報告書が存在していた。
が、報告書には、「委託先:株式会社日本総合研究所」と明記されていた。
いったいこの調査にいかほどの費用を、株式会社日本総研へ支払ったのだろうか。
相変わらずの丸投げで恰好だけつけ、お茶を濁しているお役所仕事に辟易してしまったのである。